12-02.「内定した」と「仕事ができる」は別の話(2)
引き続き、株式会社パフの社員(2009年入社)の体験談をお送りします。
(前回のコラムから)
辛い。毎日、会社に行くのが嫌だ。
会社は未曽有の不景気でピリピリした雰囲気だ。1円でも多く利益を上げる
ために、みんな夜遅くまで必死で働いている。しかし、どこか辛そうだ。
僕が入社してからもう5ヶ月がたつ。成果らしい成果というのは出ていない。
僕は固定費がかかるだけのただの給料泥棒だ。会社にとっては、存在自体が
マイナスだ。
先輩が「お客様」の話をしている。それが聞こえてくるのが嫌だった。「新
規営業担当なのに売れない」僕には「お客様がいない」。誰にも価値を提供
していない。
こんなはずではなかった。
僕はもっと仕事ができて、お客様に感謝されて、社内でも評価されている。
そのはずだった。
☆ ☆ ☆
2009年春、僕は新入社員として入社し、新規営業の部隊に配属された。
仕事と言えば、とにかく電話をかけまくるのだ。取引のない会社に、商談の
ための時間を取ってもらうために電話をかける。
先輩曰く、みんな入社後に通ってきた道だそうだ。「元気な声」と「必ずア
ポをとるという気合」が大事らしい。
内定者時代に、テレアポは割とうまくこなしていたので、きっと営業も慣れ
ればすぐに売れるようになると思った。
☆ ☆ ☆
しかし、現実は厳しかった。全く売れないのだ。
社内の営業会議では「元気に明るくお客様に接すれば売れる」「自分が新入
社員の時は、訪問したその日に買ってもらえた。とにかく最後まであきらめ
ずに気合で数多く訪問しろ」と言われる。
また、同じチームの先輩には「お前は人に興味がないから売れないのだ」
「もっとさわやかに、はきはきとしゃべれ」と毎日きつく叱られていた。
先輩の言うように、僕に気合が足りないのがいけないのだろうか?
☆ ☆ ☆
リーマンショックの影響を受け、僕が入社する直前から会社の業績は下がっ
ていった。僕が入社した時は、もうどん底だ。企業の採用教育費用は削られ、
財布のひもを固くしていた。企業の断り文句ナンバーワンは「費用対効果が
見えない」だ。
テレアポをしていても「今年は採用を中止した」という声が2~3割あるほ
どだった。
予算もないのに、取引のない会社の新入社員がいきなり電話をして、飛び込
み訪問しても買ってくれる客など、本当はいないのではないだろうか?
僕は「先輩が1年目の頃と、今では環境が違う」「過去の成功体験は通用し
ないのでは」とうっすら疑問を感じていた。
一度、上司にその疑問をぶつけてみたことがある。しかし「環境は関係ない。
ただの言い訳だ。売れる人は不景気でも売れるものだ」と一蹴された。
「売れない営業」には社内で発言権など、無いのだ。
「じゃあどうすればいいか?」ということはよくわからないので、とにかく
電話をかけまくって、アポを取りまくって、訪問しまくっていた。
☆ ☆ ☆
何のためにこの会社に入ったのか。
何のために毎日朝始発に乗って終電で帰っているのか。
電話で知らないおじさんと話しているのか。
汗だくになって会社を訪問しているのか。
わからなくなってしまった。
一方、社員たちの奮闘むなしく、会社の業績はどんどん厳しさを増していく。
もう「会社を黒字にするため」だけに働いているような感覚だ。
すべては、利益をあげるために―。
僕は、完全に働く意味を見失っていた。
(つづく)